GoogleアナリティクスとZoho CRMの連携によって可能になること
こんにちは、清水 誠です。第一回から4回にわたって、GoogleアナリティクスとZoho CRMを統合してWebのパーソナライズを簡易的に実現する方法について具体的に紹介してきました。例として取り上げたEC(ネット通販)はわかりやすい例の一つでしかなく、他のビジネスモデルにも適用できます。
そこで今回は、この考え方と仕組みを使うとどんなことが可能になるのか、応用例をいくつか紹介することで、連載を締めくくりたいと思います。
カスタマー志向のビジネスやマーケティングがトレンド
連載の前半は具体的な実装の話が続きました。視点を広げるため、マーケティングの大きな流れの中で今回の取り組みを振り返ってみましょう。
最近のマーケティング(やビジネスそのもの)は顧客一人ひとりに目を向けるようになってきました。それに伴って、「顧客視点」「人間中心」「顧客体験」「UX」「CX」「人軸」「ピープルベース」「LTV」などと色々な表現やソリューションが飛び交うようになりました。
大きな予算が動くアドテク(デジタル広告)業界ではこのトレンドの普及が進みつつありますが、オウンドメディア運用やWebアナリティクス(ウェブ解析)、SEO、コンテンツマーケティングなど、集客後の接客に関しては、まだまだシステムやビジネス都合の指標の確認や、短期的な最適化に留まりがちなのが現状です。
企業と顧客の関係性を
というようなステージで捉えると、これまでは獲得とCVの最適化が重視されがちでした。これは、わかりやすい、実行しやすいという都合によるものです。コスト削減や売上の最大化、価格や品質の訴求、企業都合の発信だけでは、グローバルの競争に勝ち残れない時代です。「接客」や「維持」(リテンション)についても考慮・対策しないと、長期的な顧客育成が進まず、ビジネスが安定・成長しません。
MA(マーケティングオートメーション)や接客ツールのような最近のソリューションも、この長期的な顧客との関係性のあり方を明確にすることが前提になっています。
顧客体験の改善につなげるカスタマーアナリティクス
このようなトレンドを受け、アナリティクスやCRMも進化してきました。顧客一人ひとりに向き合うマーケティングやビジネスを実現するためには、顧客データの活用が必須となります。
ただし、これまでのようにシステムや部署ごとに分断されたデータを使うのではなく、顧客に関する幅広いデータを個人単位で紐づけて統合することが重要です。なぜなら、企業は顧客一人ひとりを理解し、顧客体験の設計や構築、改善につなげることで、顧客の獲得と維持をしていく必要があるからです。そのため、アナリティクスはウェブ上の行動データのみを扱う「アクセス解析」「ログ分析」「ウェブ解析」から、より広いデジタルアナリティクス、さらにはオフラインまでも含めた「カスタマーアナリティクス」へと進化しつつあります。
このような顧客データの統合によって顧客一人ひとりを360度から理解し、顧客体験の改善につなげていく方法論のことを「カスタマーアナリティクス」と呼びます。アナリティクスとCRMの融合、と言い換えることもできるでしょう。
カスタマーアナリティクスとは:
顧客理解とデータ活用によってビジネス上の意思決定につなげる方法論
カスタマーアナリティクスのプロセス
アナリシスは「分析」を意味しますが、「アナリティクス」は(ツールを活用した)データの収集や分析によって意思決定へとつなげていく方法論、プロセスまでも含む英単語です。ツールの名前や種類ではありません。
この反復的なプロセスは、日本では製造業で一般化した「PDCA」という略語で表現されることが多いですが、何となく分かったつもりになりがちです。アナリティクスのプロセスは、グロースハックのBuild-Measure-Learnモデルを以下のように拡張するとわかりやすいでしょう。
1. Build Experience / エクスペリエンスの構築
企業が構築すべきなのはウェブサイトやアプリではなく、それらを通じて得られる顧客の体験そのものです。認知や関心のきっかけとなる広告やキャンペーン、情報収集の過程で触れる検索や口コミ、商品やサービスの検討や購入、活用、アフターサービスにおけるメールやSNS、さらには店舗やTV、印刷物、コールセンターといったオフラインも全て、顧客体験に影響を与えます。
チャネルやメディア、キャンペーンといった企業の都合で企画・管理・運用するのではなく、顧客一人ひとりの状況に合わせて最適なメッセージを最適なタイミングで最適な接点を通じて届けることが重要です。
また、計測されたデータをシステム間で連携させることで、パーソナライズやターゲティングの自動化も可能になります。
2. Measure Data / エクスペリエンスの計測
伝統的には性別や年代といったデモグラ(属性)や購買(行動)データを使った顧客分析の活用が中心でしたが、最近は行動(ビュー・クリック)や態度(アンケート・ソーシャル・趣味嗜好)のデータをデジタルで取得できるようになりました。
単にデータを集めるのではなく、各種データを個人単位で紐づけ、360度から一人ひとりを理解・分類するのがカスタマーアナリティクスの特徴です。
3. Learn Ideas / 顧客の理解
データを見て場当たり的に大小様々な気づきを得るだけでは、ビジネスへの大きなインパクトは見込めません。目的に応じて適切に取得したデータを適切に分析することで傾向やパターンを見出し、個客の将来の変化を予測できるようになると、機会の創出やリスクへの早期対応、さらにはマーケティングや接客の自動化が可能になります。
そのためには、カスタマージャーニーマップやコンセプトダイアグラムを使った顧客体験のモデリングとビジュアライズも重要です。
統合可能な顧客データの例
本連載では、GoogleアナリティクスからWeb上の行動(閲覧・クリック・購買)データを、ECシステムから購買情報とデモグラ情報を取得しました。他にも、いろいろなデータの組み合わせが考えられます。
行動系データ
- Webの閲覧ページやクリックのデータ
- メールの開封やWebリンクのクリック
属性系データ
- デモグラ情報
- オフライン含む購買履歴
- ロイヤルティのランクやLTV
態度系データ
- オンラインで実施するアンケートの回答内容
- Web上の行動からの推定心理(注目や迷い、検討、意識の広がりなど)のスコア
匿名の訪問者にまで対象を広げる
本連載で実現したGoogleアナリティクスとZoho CRMの統合がユニークなのは、個人を特定できる会員IDや顧客IDを使うというCRMで一般的な方法ではなく、WebアナリティクスのCookie IDを使って匿名の訪問者を対象に各種データを統合した点です。ただし、匿名の状態が最終というわけはありません。資料請求や購入といった個人を特定できるデータが得られた後はCookie IDとの紐付けを行うことで、徐々にプロファイルが明らかになっていくプログレッシブなアプローチを採用しました。
この結果として、ログインを必要としないサイトにおいても、幅広い訪問者や顧客を対象とした分析やターゲティング(パーソナライズ)が可能になりました。
カスタマーアナリティクスの応用例
視点を広げて大きな考え方を整理したので、最後にこれらのアプローチをどのような場合に応用できるのか、以下のデータの流れ図を見ながら具体的に考えてみましょう。